製造業のさまざまな分類方法
製造業の生産アーキテクチャについて議論する際には、いくつかの視点から分類が可能となります。以下に、工程の利用形態による分類、生産指示方式による分類、製品の種類と生産量による分類、そして、受注戦略による分類についてその内容を説明します。
工程の利用形態による分類
まず、工程の利用形態を概念的にとらえた分類として、計画あるいはスケジューリングといった意思決定のしくみに大きく関係する以下の3つの区分が重要となります。
(1)フロー型生産
これには、化学プラントなどの連続型の生産と、離散型生産における一個流し生産が対応します。いずれの場合も、生産数量は常に平準化されており、一定の割合で継続的に生産が行われます。在庫は基本的にパイプライン在庫が中心となり、滞留による中間での仕掛在庫を無視できます。この形態の生産では、ラインバランスやオーダの投入管理が重要となり、プロセス内のスケジューリングはほとんど必要ありません。
(2)断続型生産
生産の繰返し性はあるが、製造品目の量のばらつきが大きい生産形態です。ほとんどの製造業は、多かれ少なかれこのタイプの工程をもっています。離散型の生産では変種変量生産が、プロセス系ではバッチプロセスによる生産がこれに対応します。スケジューリングでは、品種の切替えによるロスの最小化や、ボトルネックの管理などが重要となります。また、上位の計画では、多様で変化する需要に最小の設備投資で対応するための、需給バランス調整が重要となります。
(3)プロジェクト型生産
一回の生産を行うにあたり、資材や部品などの手配のみならず、生産設備や作業者などの生産資源も合わせて調達し、生産が終わったらすべて開放する方式です。繰返し性はありません。この生産形態では、設計プロセスも含む場合が多くなります。造船や航空機などの大規模構造物である製品などが該当します。工場建設もこれに含まれます。プロジェクトスケジューリングの手法が多く利用されます。
生産指示方式による分類
生産指示の方式としては、プッシュ型、プル型、そして両者を組み合わせたハイブリッド型の指示方式があります。また、関連した区分としては階層型/自律型や同期型/非同期型といった区分もあります。
(1)プッシュ型生産
プッシュ型生産では、製造資源が利用可能となり、必要な資材がそろったら生産を開始します。将来に備えて作れるときに作る、という考え方のもとで生産するために、製造資源の稼働率は向上します。この場合、生産の開始は前工程の終了時刻に大きく影響されます。複数の種類のオーダが着手可能な場合には、優先度ルールにしたがって開始するオーダを選択する方式があります。
(2)プル型生産
プル型生産では、後工程からの要求にしたがい、必要なときに必要な量だけ生産します。後工程からの要求がない場合には、たとえ生産可能であっても生産は開始されません。稼働率は低くなりますが、一定量の在庫をあらかじめ保持することで納入リードタイムを削減することができます。後補充方式とも呼ばれます。この方式の代表例として、カンバン方式があります。
(3)ハイブリッド型生産
ハイブリッド型生産は、プッシュ型、プル型を組み合わせた生産方式です。一連の工程を前半と後半に分け、それぞれプッシュ型、プル型に分けて管理する方法や、ひとつの工程に対して、オーダの種類によりプッシュ型、プル型のいずれかを割り当て、2種類の方法を同時にスケジューラで制御する方式などがあります。
製品の種類と生産量による分類
製品の種類と生産量に関しては、製品の品種数の多さと、それぞれの品種ごとの生産量によって、少品種大量生産、多品種少量生産、変種変量生産に分類できます。
(1)少品種大量生産
少品種大量生産は、いわゆるマスプロダクション(大量生産)のことで、専用の生産ラインを用いて、同じものを連続して作り続ける方式です。一個あたりの生産コストはもっとも低く抑えることができますが、生産量にみあった需要を常に確保することが要求され、昨今は徐々に減る傾向にあります。
(2)多品種少量生産
多品種少量生産は、最終的な完成品の種類がきわめて多く、かつ一回の生産数が少量である場合の生産方式です。それぞれの品種ごとに使用する生産資源や生産方法が異なるため、品種切替回数が増え、その結果として生産効率は下がり、スケジューリングなど生産管理が複雑になります。
(3)変種変量生産
登録された品種の数は多いが、日常的によく生産する品種についていえば、その品種数や生産数量は変動するという場合がこれに相当します。一般的には、定番の品目と、あまり数量の出ない品目に分かれますが、それらの位置づけが製品開発サイクルとともに細かく入れ替わります。
受注形態による分類
以下にあげる受注形態上の分類は、その企業が需要と供給の関係をどのようなビジネス戦略の上で調整し意思決定を行っていくかについての分類です。製品の多様性および付加価値をどのタイミングで付加するかがポイントとなります。
(1)見込生産(Make-To-Stock)
これは、顧客からの受注に先立って見込で生産を行い、完成品在庫としてストックしたものの中から、受注に応じて出荷していく形式です。納入リードタイムは最短となるが、在庫保管費用が高いという欠点があります。一方、まとめて作ることができるので、製造コストは安くなります。長期にわたって製品が劣化あるいは陳腐化せず、需要が安定している場合には、この形態が有効となります。
(2)受注生産(Make-To-Order)
この方式では、顧客からの受注があるまで生産を開始しません。受注後にはじめて生産を開始し、製品が完成し次第出荷します。納入リードタイムは極めて長くなりますが、完成品在庫が基本的にゼロとなる利点があります。資材はあらかじめ調達しておく場合と、受注後に行う場合とがあります。多品種で、繰返し性の少ない場合にはこの形態が有効となります。
(3)受注設計生産(Design-To-Order)
あらかじめ製品として定まった形をもたず、要素技術のみを提示し、その都度顧客の要望に合わせて製品を設計し製造する方式です。製品の大まかな雛形やサンプルをベースにカスタマイズすることになります。納入リードタイムは長くなり、不確定である場合が多くなります。受注に先立って、標準的な部分のみを先行して製造しておくことは可能です。
(4)受注即応生産(Finish-To-Order)
受注生産型と見込生産型を混合した方式です。あらかじめ見込生産として受注前に生産を開始しますが、BOM(部品表または製品構造)のあるポイントで中間在庫を持った上で、それ以降は受注生産方式となります。完成品の在庫を持たないため、在庫量を低く抑えたままで、納入リードタイムを短縮できるという特徴があります。製品のバラエティが生産工程の最終段階において形成されるタイプのBOMをもつ製品の場合に有効となります。