組織的意思決定のキーワード

ここで議論するAPSは、意思決定のためのしくみです。製造業の業務は、さまざまな意思決定によって成り立っています。そこでまず、この意思決定について、その構造を明らかにします。

一般に、人間が行う意思決定は非常に高度で広範囲です。したがって、ここで扱う意思決定は、意思決定全般というよりは、より具体的に、企業の業務としての具体的なアクションをとるために必要な計画やスケジュールに関連するさまざまな情報を決定することと定義します。ただし、実際の業務には、計画やスケジュールを直接生成する行為のみでなく、そのために必要となる情報の生成や管理といった間接業務も含まれます。

このような意思決定では、具体的なアクションがあらかじめ明らかで、その実行の時刻や場所のみを決定する場合と、そのアクションの内容そのものに関する項目、つまり何をどう実行するかも意思決定の対象となっている場合があります。APSをこのような意思決定のためのしくみとして認識し、それを独自にデザインするためには、ある程度この意思決定の特徴に関する知識が必要となります。企業に存在するさまざまな意思決定は、以下のような視点から特徴づけることができます。

(1)フィードバックとフィードフォワード

具体的なアクションに関する意思決定の方式として、最も一般的なものがフィードバック方式です。これは、過去に行った意思決定で目指していた状況と、意思決定の内容を実行して得られた状況を比較し、そこから得られた情報を次の意思決定の内容に反映させるというものです。自分の過去の意思決定の結果を、現在の意思決定で再利用するという意味で、フィードバック方式と呼ばれています。特にこの方式は、より物理的な制御の世界で広く用いられています。

一方、未来の状況が比較的予測可能である場合には、フィードフォワード方式が有効となります。フィードフォワード方式では、計画あるいはスケジューリングのしくみをもち、将来の一定期間にわたってのアクションや予測される事象をあらかじめ設定し、さまざまな制約や因果関係から起こりうる状況を事前に予測します。フィードバック方式では、変化が起こった後の対応となるために、その間のロスが発生することになりますが、フィードフォワード方式では、あらかじめ変化を予測することで、目標と現実とのギャップを最小にしようとします。

(2)新規計画と再計画

将来の一定期間の業務におけるアクションを計画する場合、それらは新規計画と再計画の2つのタイプに分類できます。新規計画では、対象期間のアクションに関する意思決定を、ゼロの状態から行います。一方、いったん決定した計画は、それが将来のアクションに関するものであるため、時間の経過とともにより新しい状況が明らかになり、また想定していた状況とは異なる状況となった場合に、修正される場合があります。これを再計画と呼び区別します。

現実の業務では、常に現在から将来にわたってのアクションが設定されており、それらが常に最新の状況に応じて更新されています。つまり、実際の多くの意思決定は、新規計画ではなく再計画に属することになります。形式的には新規計画であるが、実際にはインフォーマルに設定していた計画に対する再計画として位置づけられる場合も多く存在します。

再計画の場合、計画を行う対象期間に、過去に作成した計画の一部が登場します。これらの過去(前回)の計画の要素には、現実的に変更することができないもの、変更しないことが望ましいもの、そして変更が自由にできるものなどが混在しています。一般に、現在時刻に近いほど変更が困難であり、将来にいくほど変更が容易となります。

(3)計画期間と計画サイクル

企業が行う計画やスケジューリングなどの意思決定を業務モデルとして記述する場合に、非常に重要なパラメータとして計画期間(ホライゾン)と計画サイクルがあります。計画期間とは、計画の対象となる期間であり、その期間に含まれるアクションが意思決定の対象となります。計画期間は、現在時刻からみた相対的な開始時刻と終了時刻(または期間)によって定義できます。たとえば、翌週の月曜日から一週間、といった表現となります。

これに対して、計画サイクルとは、新規計画または再計画を行う頻度のことを意味します。計画サイクルは固定である場合と、必要に応じて行われる不定期の場合と、両者の組み合わせの場合があります。固定サイクルの場合には、その周期および具体的な暦上でのポイントを指定することになります。たとえば、毎週水曜日、あるいは毎月25日、などです。一方、計画サイクルが不定期の場合には、計画を行う条件を記述します。たとえば、特別な量の注文がきた場合、在庫量が一定量を下回った場合などがあげられます。

つづく...