PSLXが提案するAPSの特徴

 APSは、もともと米国にて1990年代に提案されたコンセプトであり、拡張された詳細スケジューリング技術によって、企業間のサプライチェーンマネジメントを含む、製造業の全体最適化を指向したものでした。当時議論されていたAPSは、現在は、既存のERPの計画エンジンとして部分的に活用されています。本PSLX技術仕様書が提案するAPSは、従来のAPSのコンセプトをさらに発展させ、ERPにおける計画機能全体を、そっくり置き換えるものとして位置づけています。具体的には、以下の特徴があります。

(1)抽象的な情報モデルによる情報管理

従来の情報システムは、ビジネスプロセスとデータモデルとが密接に関係し合っており、ビジネスの変化に対応して情報システムを更新する場合に、膨大なデータモデルの書き換え作業が発生します。PSLXが提唱するAPSは、その背後にドメインオントロジ(意味の辞書)と業務オブジェクトモデルを持ち、データ中心の概念のもと、価値のある情報あるいは知識を中心に据えたシステム構築を行うことができます。企業に蓄積されたさまざまな情報は、企業の資産であり、ビジネスプロセスが変わっても継承されます。

(2)ビジネスモデル変更に対する拡張性

現在の製造業が直面している不確実性の極めて高い市場環境において、製品の良し悪しのみではなく、ビジネスモデルの優位性が企業の優劣を決定する大きな要因となっています。そして、ビジネスモデルの根幹をなすのは、企業の組織的な意思決定のしくみです。APSは、個々のビジネスモデルを具現化するための基幹システムとなります。計画とスケジューリングという意思決定を中心としたAPSは、基幹システムとして企業が独自に設計し拡張することができます。

(3)設計チームと製造チームの密な連携

製品のライフサイクルが短くなり、新規製品リリースや設計変更が頻繁になるにつれ、生産現場でも、常に新しい部品、新しい製造手順、新しいラインの設置などの非定常的な作業がますます増えています。これは、計画やスケジューリングにとっては、意思決定のためのマスタ情報が常に変更になることを意味しており、データの管理が極めて煩雑となります。APSでは、BOM情報や製造手順書などを、製造部門と設計部門とで連携して管理し、正式な設計変更情報以外の非定型な情報の多くも情報システムの一部として管理することができます。

(4)リアルタイムアカウンティングとKPI

生産現場のさまざまな作業は、すべてコストと直結しており、それらが企業全体の収益にどれだけ貢献しているかを常に管理することは、非常に重要であると同時に、非常に困難な課題の一つでもあります。APSでは、コスト情報を、生産現場レベルの個々の作業のスケジュールおよびその実績として把握し、それを企業の戦略的意思決定において意味のある形に変換するしくみを持っています。APSは、企業が独自にデザインしたKPI(戦略的経営指標)に対し、リアルタイムにそのための基礎情報を提供することができます。

(5)高度に信頼できるマスタースケジュール

従来の多くのERPが扱うMPS(基準生産計画:マスタースケジュール)は、計画の粒度が粗く、さらに現実の工場の実情を反映したものではありませんでした。これに対して、APSでは、この基準生産計画をマスタースケジュールとして、その製造業における計画とスケジューリングの中核として位置づけ、すべてのアクションをこれに同期させています。特に、製造現場の詳細スケジューリングと、基準生産計画との双方向で密接な連携によってこれが可能となります。

(6)詳細スケジュールベースの企業間連携

サプライチェーンマネジメントの対象には、中長期的な計画のレベルでの企業間連携と、日々のオペレーションの同期化という極めて短期的な詳細スケジューリングのレベルでの企業間連携の2種類があります。詳細スケジューリングレベルの連携は、企業内でも確実に実現することが難しく、更に、企業間でこれを情報システムとして実現している例は非常に限られています。多くのサプライチェーンのための情報システムは、計画レベルの粒度の粗い情報交換です。PSLXが提案するAPSは、詳細スケジューリングと企業の基幹システムが連携し、必要に応じて企業間で詳細スケジュール情報を共有することで、このような連携が可能となります。

(7)人間中心の自「働」化のための支援

トヨタ生産方式の特徴の一つに、人間中心の自「働」化があります。これは、自ら考え自ら働き、問題点を主体的に解決するしくみです。情報システムにおける自「働」化とは、計算機からの出力に人間が合わせるのではなく、人間を含む工場全体や個々の生産現場の流れを目で見えるようにし、問題点の発見を容易にし、そして臨機応変にシステムそのものを改善することです。APSにおける意思決定のプロセスやロジックは、情報システム内部で固定化されることなく、常に人間の創意工夫をベースに継続的に進化していきます。

(8)製造業(ユーザ)主体のシステム化

現在、情報システムは、製造業のビジネスモデルを実現するための骨格であり、製造業の競争的優位性の源泉です。これは、情報システムを提供するSI企業やITパッケージベンダーなしには実現しえませんが、あくまでも主体となってシステム構築を行うのは製造業の側でなければなりません。今までは、ITのソリューションプロバイダーが提案する情報システムは、その内容や機能を詳細に理解することが難しく、最後になって意図しなかったシステムができあがる場合も多々ありました。PSLXで提案するAPSは、情報システムアーキテクチャが明確であり、製造業の側は、独自のビジネスに特有の機能をそこに付加することに専念することができます。

つづく...