製造業の評価モデル

 エンタープライズとは、製品あるいはサービスなどのアウトプットを提供するための、明確なミッション、ゴール、目的を共有するひとつ以上の組織です。エンタープライズは、複数の組織とそれを取り巻く複数のステークホルダから成り立っており、それらがもつミッション、ゴール、目的は、実際には単純なものではありません。したがって、エンタープライズを客観的な立場からモデル化するためには、異なるステークホルダの視点をも表現可能なエンタープライズの評価軸が必要となります。

エンタープライズが持つステークホルダをあげると、得意先、仕入先、競争相手、資本投資者、資本投資先、従業員、定期従業員、経営担当者、地域住民、そして地域行政などがあります。エンタープライズは、これらのステークホルダの利害関係の中で成り立っています。以下に示すエンタープライズの評価軸は、これらのステークホルダから独立して議論することはできません。

5つの評価軸

エンタープライズを外部から客観的に評価することは困難ですが、評価すべき軸としては、戦略性、効率性、頑強性、成長性、そして健全性の5つの評価軸が考えられます。それぞれの評価軸の重要性、関連のしかたなどは、企業のおかれている状況や時代によって変化します。たとえば、ビジネスが成長期にある場合と衰退期では当然異なります。

戦略性とは、エンタープライズが行う意思決定が、短期的で直接的なゴールを追い求めているのでなく、長期的な視点、中期的な視点、そして短期的な視点をうまくバランスしたものであるかどうかを示す軸です。また、戦略性は、自分の意思決定によって起こるであろう将来の状況をも考慮に入れた多次元的なものであるかどうかを表す軸でもあります。

効率性とは、エンタープライズが行う行動が、その目的やゴールを達成する上で効率的であるかどうかを表す軸です。効率性は、常に投入した労力に対する得られた成果の比率をもとに議論されます。ただし、何を労力と定義し、何を利益と定義するかは、状況によって異なります。

頑強性とは、エンタープライズが存続する上で、予測不可能な環境変化に対する強さを表す軸です。一般に、ある特定の環境のみに対応して最適にデザインされたエンタープライズは、環境変化に対して適応力が低く、大きなダメージを受ける場合があります。

成長性とは、エンタープライズが環境に適合しながら成長していくための仕組みがどれだけ組み込まれているかを示す軸です。結果として、エンタープライズは、過去とは異なる新しいエンタープライズに変化します。エンタープライズの成長の方法には、部分的な問題を解決していく改善型と、基幹となる構造の変更をともなう革新型があります。

最後に、健全性とは、上記の4つの軸に沿ってエンタープライズが活動を行った場合に、各組織や機能間に整合性がとられており、かつ社会的あるいは制度的に無理がないかを示す軸です。有形無形の社会システムの中でエンタープライズが長く存続していくためには、この健全性の軸が重要となります。

エンタープライズモデルとは、これら5つの評価軸に対応したさまざまな具体的な指標を、組織全体として向上させていくためのしくみということもできます。

製造業の評価指標の構造化

個々のエンタープライズが持つさまざまな経営指標(KPI)には、上記の5つの評価軸上で議論することができます。一般に、ひとつのKPIは、複数の評価軸と関係しており、それぞれの評価軸上にマッピング(点数化)することができます。あるKPIの値をもとに効率性を向上させても、結果として頑強性を低下させるといったトレードオフが発生する場合が多くあります。個々にばらばらなKPIは、これらの5つの評価軸上で関連づけ、統合的に管理することができます。

KPIには、企業全体のパフォーマンスを表現するものと、構成する一部の業務のパフォーマンスを表現するものとがあるように、本仕様書の5つの評価軸も、企業全体に対する評価軸、構成する業務モジュールに対する評価軸、そして業務を行う主体である各経営資源に対する評価軸が存在します。各レベルの5つの評価軸は、そのレベルにおいて該当する各業務あるいは各経営資源ごとに提供されるKPIとの間で、関係が定義されていなければなりません。

一般に、KPIは、企業のパフォーマンスをさまざまな視点から評価すると同時に、企業におけるさまざまな業務の目標を設定するための道具としても利用することができます。どのような目標を設定して日々の業務に取り組んでいるか、あるいは、それらの目標を表す指標がどのような相互関係をもっているかは、その企業の経営目標や理念を総合的に表したものでなければなりません。

図に示すように、各レベルの5つの評価軸は、エンタープライズモデルとして構造化し、その要素として、企業や各業務ごとに設定されるさまざまなKPIを位置づけることが可能です。KPIの具体的な値、あるいはそれを一般化した各レベルの5つの評価軸上での値は、関連マップを作成することで計算でき、その企業の今あるいは向かうべき将来を知る上で重要です。また、エンタープライズモデルとして、どのような指標が、どのような形で構造化されているかは、その企業の価値観や状況に応じた意思決定の性格に相当しています。

5つの評価軸の構造化

つづく...