モデルの階層構造を意識する 

生産資源の階層構造

PSLX技術仕様書で定義されるオブジェクトには、生産資源に関する情報、品目に関する情報、オーダに関する情報、そして、プロセスに関する情報などがあります。これらのオブジェクトは、それぞれ階層を持っています。資源のこのような階層構造は、プロセスやオーダなど、他のさまざまなクラスの定義における階層構造と連携しています。

図  資源の階層構造


生産資源に関する情報には、区域の広さを基準とした階層構造が設定できます。個々の装置や作業者などのオブジェクトが対応する生産要素を最下位として、作業場、作業区、拠点、そして企業という5つのサブクラスによって階層構造が作られています。

上位の階層に位置するオブジェクトは、下位のオブジェクトの集約となっています。ただし、治工具や作業者といった製造資源は、複数の作業場に同時に所属している場合があります。また、実際のモデル化においては、製造業の規模や種類によって、中間にある作業場、作業区、拠点などの階層を省略し、全体の階層数を減らすことができます。

輸送や配送などのプロセスをモデル化する場合には、拠点間、あるいは企業間に生産要素や作業場を定義したいという要求があるかも知れません。しかし、そのような場合も、生産要素、作業場、作業区、拠点、そして企業という階層構造に沿って、定義しなければなりません。

企業間あるいは拠点間は、空間的な広がりをもった企業あるいは拠点として定義されます。拠点間、あるいは企業間に存在する輸送トラックなどの生産要素は、その資源を所有するあるいは管理する側の拠点あるいは企業に所属させるか、あるいは輸送業者といった企業を別途定義し、ある地域をカバーする範囲に対応した拠点を設定することで対応します。

企業(Enterprise)

企業は、組織として非常に強固な意思決定を行う単位であり、この単位で利益が管理されます。企業の内側と外側では、情報の密度や情報交換の頻度が極端に異なります。ただし、企業間の提携などにより、この境界が多少薄れている場合もあります。企業は、一般に複数の拠点から構成されています。

拠点(Site)

拠点は、経営管理上、独立した主体として認識され、管理会計上の経費や生産品目の出入りによるコスト管理が最低限行われている単位です。工場や物流拠点など、一般に、輸送によって製品を運搬する必要がある地域的に離れた単位が相当します。ただし、地域的に離れていても、管理上同一拠点内とみなすことは可能です。また、逆に、地理的に隣接しており、輸送を必要としない場合でも、管理区分上の必要性から、2つの拠点に分けることも可能です。

作業区(Area)

作業区は、加工ショップや組立てショップなど、製品を完成させるまでの一連の工程を、大きな単位でまとめて管理するためのものです。主に製造を行う作業区の他に、検査区や倉庫なども作業区として認識することが可能です。通常、班などの作業者チームが交代で作業区の作業を担当し、企業全体の管理の視点からみた場合の最小単位となります。

作業場(Work Center)

作業場は、作業を行う場所であり、下位の階層である装置や作業者などの製造資源によって構成された単位です。生産管理において、作業指示はこの作業場に対して発行され、それに対する作業実績がこの単位でまとめられます。
作業場には、生産設備、移動設備、検査設備、そして保管設備というサブクラスが存在し、作業場オブジェクトはこのいずれかに属します。なお、本仕様書では、設備は装置よりも上位の概念となります。

生産要素(Production Element)

生産要素は、作業場を構成する具体的な装置や作業者など、生産能力を提供することが可能な資源です。最終的な作業を行うのは、このオブジェクトまたはこのオブジェクトと同等の区域情報をもつ装置や作業者となります。

プロセスの階層構造

図 4?2のようにプロセスには、対応する資源の階層に応じて、拠点間プロセス、拠点プロセス、作業区プロセス、作業方法というサブクラスがあります。プロセスに属するインスタンスは、これらのいずれかのサブクラスに属していなければなりません。

図  プロセスの階層構造

拠点間プロセス(Supply Chain)

企業内サプライチェーンは、企業の内部において複数の工場や拠点を経由して最終的な顧客に製品を納入する場合に、それらの企業内部のプロセスをひとまとめにした情報として定義します。企業は、対象製品ごとに、ひとつ以上の企業内サプライチェーンを持ち、その内容を定義する拠点間の生産手順にしたがって生産を実行します。

拠点プロセス(Site Process)

拠点プロセスは、企業内サプライチェーン上のひとつの拠点における生産プロセスをひとつの単位として扱います。それぞれの拠点は、要求された製品ごとに、さまざまな種類の拠点プロセスを実行することが可能です。拠点プロセスの内容は、拠点内手順として別途定義されます。

作業区プロセス(Area Process)

作業区プロセスは、作業区単位で行う生産プロセスをひとつのまとまりとして捕らえたものです。工場の内部には、さまざまな作業区が存在し、そのそれぞれの作業区はとり扱う製品や資材ごとにさまざまな作業区プロセスを実行可能です。作業区プロセスの内容は、工順情報として別途設定されます。

作業方法(Work Process)

作業方法は、作業場単位の生産プロセスです。作業方法は、詳細スケジューリングを行う上での基本的な要素となります。作業方法は、何らかの品目を生産し、必要に応じて何らかの品目を消費します。作業方法には、生産作業、在庫作業、品質作業、保守作業の4つのサブクラスが存在します。

オーダの階層構造

オーダ(Order)

オーダは、意思決定のトリガとなる情報であり、製造業を構成するさまざまな意思決定主体がもつ要求を表現するためのオブジェクトです。オーダによって、それらの要求を他の意思決定主体に伝達し、具体的なアクティビティを実行させることができます。

オーダの階層構造として、以下のように、企業オーダ、拠点オーダ、作業区オーダ、そして作業場オーダが存在します。

図  オーダの階層構造

企業オーダ(Enterprise Order)

企業オーダは、企業レベルで交換されるオーダおよびその結果です。一般に、企業オーダは、異なる企業間でのビジネス上の取引を行うことが前提となるために、対価の設定や契約上の取り決めなど、複雑な情報が設定され、セキュリティ上も高度な扱いが要求されます。

拠点オーダ(Site Order)

拠点オーダは、拠点レベルの組織間、つまり工場や物流拠点など組織区分上の異なる管理組織間で交換されるオーダおよびその結果です。同一企業内であっても、企業オーダと同様に、管理会計上で対価の設定を行う場合があります。

作業区オーダ(Area Order)

作業区オーダは、拠点内をいくつかの管理区分に分割した作業区間で交換するオーダおよびその結果です。倉庫と作業現場間、あるいは生産形態の異なる前後工程間で交換する生産オーダなどが対応します。

作業場オーダ(Work Order)

作業場オーダは、作業場レベルで発行されるオーダを表すオブジェクトです。このレベルには、生産要素として装置や作業者が存在するため、作業場オーダが、作業指示に1対1で対応します。