業務オブジェクトとは

オブジェクトとは、現実世界にあるさまざまな情報を、特定の視点からとらえ、人間が認識可能なあるまとまった単位で名前をつけて表現したものです。実際に存在し識別可能な現物情報の他に、それらを知識として一般化した技術情報、そしてさらにそれらの知識に関する操作といったメタな情報などがあります。これは、オブジェクト指向モデリングにおける定義とほぼ同じです。業務オブジェクトとは、APSという問題に関連した業務において利用されるオブジェクトのことです。

業務アクティビティモデルにおいて、製造業におけるさまざまな業務を定義しました。そこでは、個々のアクティビティがそれぞれの業務を行うために情報交換をします。業務オブジェクトは、この情報交換において交換される情報の意味や概念を定義するためのものということもできます。

業務オブジェクトは、データベース設計で用いられるER(エンティティーリレーションシップ)図におけるエンティティと似ています。しかし、一番の違いは、抽象化された構造を表記できる点でしょう。たとえば、装置や作業者は、生産要素として抽象化して表現することができます。両者に共通な定義は、この上位の概念に対して定義することで、記述量を節約でき、その分、全体の複雑性を減らすことが可能です。

また、業務オブジェクトのもうひとつの特徴は、これが問題そのものの表現であるという点です。たとえば、対象となる受注オーダ情報を、データベース上で表現するためには、いろいろな情報を付加したり、変更したりする必要があります。「データベースで表現する」という具体的な解決先のために変更したモデルは、本来の問題のモデルではなく、解決のための便宜的なモデルでしかありません。(もちろん、このようなモデルが必要なことは理解しています。それらは、パート6のRDBスキーマで議論されています。)

製造業の情報システムを構築(再構築)する場合に、解決策となるシステムを議論するまえに、まず対象となる企業のあり様(問題そのもの)を表現することが必要です。その場合に、この業務オブジェクトが非常にやくにたつでしょう。つまり、狭い用途としては、業務オブジェクトは業務間のメッセージの内容を定義するための道具であり、より広い活用法として、企業の業務分析や設計のためのツールとして位置づけることもできます。