既存のERPとの対比
すでに多くの製造業では、その基幹システムとして、MRP IIやERPが実装され稼動しています。これらレガシーシステムと、PSLX技術仕様書が定義するAPSとの関係を以下に確認しておきます。まず、図6-3に、典型的な製造業における基幹情報システムの構成を示します。
以下の図では、まず全体を、企業レベル管理者、生産レベル管理者、そして現場レベル管理者の3つの階層に分けています。これは、各意思決定において、意思決定に関与する人間の視点あるいは目的がそれぞれ異なる点を強調するためです。企業レベルの管理者は、企業全体の収益の視点から意思決定を行い、生産レベルの管理者は、稼働率、リードタイム、在庫量などの工場全体のパラメータに注目しながら、最終的には工場全体のスループットを最大化します。一方、現場レベルの管理者は、上位レベルで作成した計画どおりには現実は動かないことを知っており、より安全で確実で効率的な生産の方法を常に模索することになります。MES(製造実行システム)はこのレベルが対象となります。
上記の 図の各ブロックの中で、資材所要量計画(MRP)と、能力所要量計画(CRP)のみ、その内容を説明します。なぜなら、このように、製品や資材に関する情報と、設備や作業場などの生産資源の能力に関する情報が分離していることが、従来型の意思決定システムの最大の欠点だったからです。
まず、資材所要量計画(MRP)は、MRPロジックにより、最終製品レベルの計画情報を、BOM情報を用いて順次展開し、必要となる資材の調達や、それぞれの部品レベルで生産開始の時期と数量を計算します。計画対象は比較的短期から中期となり、必要に応じて、不定期に部分的な再計画を行います。
一方、能力所要量計画(CRP)では、各作業区または作業場についての負荷の山積み山崩しを行いながら、最終的に、各作業単位ごと与えられた有限の生産能力以下に負荷が収まるように生産の開始時期を調整します。品目ごとのルーティング情報が必要となります。
なお、上の図において、矩形の角が丸い意思決定モジュールは「計画」、つまり一定幅に区切られた期間(タイムバケットまたはタイムフェーズ)に対する意思決定であることを示し、そうでないものは「スケジューリング」、つまり、連続する時間軸上での意思決定であることを示しています。
ここまで説明したような既存の情報システムのモジュール構成は、以下の3点で問題があります。まず、現場レベルの管理者と生産レベルの管理者の間で、情報が一方向であり、上位の計画に生産現場の実際の状況が反映されにくいという点です。そして、第二は、すでに指摘したように、企業レベル管理者および生産レベル管理者それぞれについて、製品や部品などの生産数量に関する意思決定と、工場や設備の能力に関する意思決定が独立しているため、コミュニケーションの効率が非常に悪いという点です。そして、第三は、製造技術部門や製品設計部門、さらには企業外部の得意先や仕入先などとの間で、より密接な連携をとるしくみが組み込まれていないという点です。
これに対して、PSLX技術仕様書では、従来の情報システムに代わる新しいAPSのためのシステム構成として、以下の図のような構成を提案しています。ここで、特に中心に位置づけられている需給調整計画、基準日程計画、作業日程計画、そして詳細スケジューリングの部分が、APSシステムの核となっています。これらは、すでに述べた意思決定の階層にそのまま対応するものです。
上の図と下の図とを比較して分かることとして、まず、基準日程計画および作業日程計画が、計画の要素とスケジューリングの要素を併せ持っているという点があげられます。つまり、必要に応じて、基準日程計画、あるいは作業日程計画は、従来のタイムバケットをベースとした処理ではなく、詳細スケジューリングと同様の連続時間軸上での意思決定を行えることを示唆しています。これは、本仕様書が提供する計画とスケジューリングの統合のためのさまざまな規定によって可能となります。
また、下の図では、上の図では2つに分かれていたモジュールが一つとなっています。まず、「販売計画/生産在庫計画」と「資源計画/能力計画」の2つのモジュールは統合され「需給調整計画」となりました。また、「資材所要量計画」と「能力所要量計画」も、「作業日程計画」として統合されています。これらは、ともにPSLXの業務オブジェクトモデルにおいて、製品や部品や資材に関する概念と、設備や作業場などの資源の概念が、作業という概念を中心に明確に関係づけられていることで実現可能となります。
以下の図ではさらに、APSが、製品設計や工程設計、そして得意先連携や仕入先連携の業務モジュールとも柔軟に情報交換ができるしくみであることを示しています。