製品/工程/生産アーキテクチャ

アーキテクチャとは、ある概念を具体的な人工物として作り上げるために必要となる技術の様式です。そこでは、さまざまな技術が、ある一定の価値観のもとで取捨選択され、パターン化されていきます。つまり、アーキテクチャは一義的には作られた人工物の構造を指しますが、その実体としては、その人工物を作るために必要となる技術の体系を示しています。

製造業というエンタープライズをひとつの人工物としてとらえた場合、以下のような製品アーキテクチャ、工程アーキテクチャ、そして生産アーキテクチャの3種類のアーキテクチャの議論が可能となります。

製造業アーキテクチャの構造

製品アーキテクチャ

製品アーキテクチャは、エンタープライズが生産する製品の構造の特徴に依存した技術の体系です。扱う製品が個々に識別可能な固体である場合、数量としてしか識別できない個体である場合、粉体である場合、そして流体である場合などは、最終的な製品構造としての特徴です。

また、エンタープライズが生産する最終製品と、そのために必要となる部品や原材料の関係構造も重要です。製品に構造として、機械製品のように複数の部品や原材料から1つの製品が構成されるA型(組み立て型)や、石油や鉄鋼のように、同一種類の原材料が分かれて複数の製品ができるV型(分流型)といった特徴によって製造業を区別することができます。

さらに、ひとつの製品としてではなく、エンタープライズが扱うすべての製品のバラエティとして見た場合、同様に最終製品、中間製品、そして原材料の間での品種の多さを議論することができます。部品の共通化の度合いや、製品の世代間のバラエティなども製品アーキテクチャに大きく影響します。

工程アーキテクチャ

工程アーキテクチャは、エンタープライズが製品を生産するために必要となる工場の設備や装置、そして作業者といった製造資源の構造に関係したアーキテクチャです。工場と工場、そして関係する取引先などをふくめた構造も、対象となる場合があります。工程アーキテクチャは、これら生産のために必要となる再利用可能な資源を作り上げ機能させるための技術の体系です。

工程アーキテクチャは、製品アーキテクチャと同様、いくつかの視点によって分類できます。まず、機械や装置の配置によって、フローショップ型とジョブショップ型、そしてセル形に分類できます。

フローショップ型では、生産プロセスにおける物の流れに沿って装置が配置され、装置間をモノが同一方向に移動します。ジョブショップでは、装置はその機能ごとに生産プロセスの流れとは独立して配置され、モノが装置間を渡り歩くことになります。セル型では、複数の技能をもつ一人以上の作業者や、異なった機能を持つ複数の装置がグループをつくり、それぞれ一箇所にまとめて配置されます。この場合、生産対象となるモノは、生産プロセスの複数のステップにおいて、セル内で移動する必要はありません。

工程アーキテクチャは、生産プロセスを実行するのが、機械や装置であるのか、作業者が主体となって行うのか、つまり自動化のレベルによっても大きく異なってきます。また、自動化のレベルとは別に、機械や装置、あるいは作業者が単一の作業のみ実行可能なのか、複数の作業を実行可能なのかによっても異なります。

工程アーキテクチャは、エンタープライズ内部の生産工程のみでなく、得意先や仕入先との間のモノの移動や、数的な関係についても議論する必要があります。得意先の数が少なく固定化されている場合や、特定の仕入先に大きく依存している場合など、工程アーキテクチャに大きく影響する場合があります。また、エンタープライズが本来受け持っている生産プロセスの一部を協力企業に委託するような場合も、大きく影響します。

製品アーキテクチャと工程アーキテクチャとの接点は、生産プロセスとなります。ここで、生産プロセスは、ある製品をある工程で生産するための行為の集まりということができます。したがって、製品アーキテクチャと工程アーキテクチャは、ともに生産プロセスを強く意識したものでなければなりません。

生産アーキテクチャ

生産アーキテクチャは、エンタープライズを取り巻く現実のマーケットのニーズと、さまざまなシーズからなる生産環境の中で、この生産プロセスを機能させるための意思決定と実行のサイクルからなる構造です。生産管理に関する多くの技術は、この生産アーキテクチャの一部として議論できます。

生産アーキテクチャは、製品の種類と生産数量に関して、少品種多量生産方式、多品種少量生産方式、変種変量生産方式などの特徴によって分類することが可能です。また、在庫の持ち方によって、見込生産方式、受注生産方式、受注設計生産方式、受注即応生産方式という区分もあります。

生産アーキテクチャは、さらに、エンタープライズ全体の視点から見たモノの流れの滞留の様子によって、フロー型生産、断続型生産、そしてプロジェクト型生産に分類できます。また、工程に対する生産指示の与え方によって、プッシュ型生産、プル型生産、ハイブリッド型生産といった分け方が可能となります。生産アーキテクチャのこれらの分類については、4章でさらに詳しく定義しています。

これらの3種類のアーキテクチャの背後にある技術は、それぞれ密接に関係しあっています。したがって、それら3種類のアーキテクチャを統合して製造業アーキテクチャと呼びます。

つづく...