製造業のビューと情報の構造

 製造業アーキテクチャをエンタープライズ全体としてとらえた場合に、製品アーキテクチャ、工程アーキテクチャ、そして生産アーキテクチャの3つのアーキテクチャが渾然一体となって構成されています。製造業というエンタープライズを、ある種の人工物としてとらえて解析し、設計し、実際の組織の中に機能を組み込んでいくためには、上記の3種類のアーキテクチャを製造業アーキテクチャとして一体として扱った上で、それを以下の3つのビュー(視点)に分けて議論する必要があります。

製造業アーキテクチャのビュー

まず、第一のビューは、業務プロセスのビューです。このビューには、いわゆるビジネスプロセスや、生産現場における生産管理や工程管理の手順、そして装置の制御方法やノウハウなどが含まれます。業務プロセスのビューは、エンタープライズに属するあらゆる要素がお互いに連携して行う行為の流れをとらえるためのビューです。

第二のビューは、経営資源情報化のビューです。これは、エンタープライズをある一時点の静的な構造としてとらえたものであり、製造業に存在しているあらゆる情報がここで表現可能です。ただし、ここで扱うのは、現実そのものではなく、現実世界に存在するモノや構造を、ある意図や目的によってフィルターをかけて抽出し、必要なレベルに応じて抽象化した情報です。

この第二のビューの中で、情報として表現される内容としては、図3-4に示すように、事実情報、知識情報、そして規約情報があります。ここで事実情報とは現実世界のものごとに対応する情報、知識情報はそれらを意味のある特定の視点から抽象化した情報、そして規約情報は、異なる意思決定者間で合意された情報です。事実情報は知識情報に制約され、知識情報は規約情報に制約されるという特徴があります。また、状況に応じて、現実世界の行動は事実情報の変更を促し、事実情報は知識情報の変更を促し、知識情報は規約情報の変更を促します。規約の中には、法的なもの、会社のルールなども含まれています。

情報の種類と構造

第三のビューは、実装システム、あるいは狭義のIT(情報技術)のビューです。ここで狭義のITとは、デジタル化技術、つまり、コンピュータやネットワーク上でデータを処理可能な形にすることで、処理効率やスピードを飛躍的に向上させることを目的とした技術です。パッケージソフトウェアやレガシーシステムはここに含まれます。ただし、この第三のビューでは、コンピュータを前提としない情報システムも対象とします。たとえば、電話やFAXによる情報伝達、帳票や技術図書類による情報伝達なども、情報システムの一部ということができます。

PSLX技術仕様書バージョン2では、これらの3つのビューに対応する形で仕様が定義されています。まず、第2部の「業務アクティビティモデル」は、業務プロセスのビューに対応した仕様となっています。また、第3部の「業務オブジェクトモデル」は、経営資源情報化のビューに対応して、さまざまな経営資源をオブジェクトとして表現する方法を示しています。さらに、仕様書第4部の「APSドメインオントロジ」では、PSLX以外の仕様との関連付けのための基礎を示し、仕様書第5部の「XMLスキーマ」および第6部の「RDBスキーマ」は、実装システムのビューに対応し、実際にITシステムを開発する際に必要となるモデルを定義しています。

つづく...