APSにおける意思決定の構造

APSが担当する意思決定の中で、特に生産計画や生産スケジューリングに関係する部分を、さらに別の視点から分類すると図5-3のようになります。ここで左側の3つのレベルは、意思決定が対象とする情報の粒度の違いを表しています。まず、最上位の製品群レベルでは、さまざまな種類の製品を、そのグループやカテゴリーごとにまとめた上で、それらのグループまたはカテゴリーごとの総量が意思決定の対象となります。これに対して、個別製品レベルでは、異なる製品をまとめることは行わず、それぞれの製品ごとの情報が意思決定の対象となります。そして、最下位の全品目レベルは、製品のみでなく、その製品の構成要素となっている半製品、部品、資材などすべてが意思決定の対象となります。

以下の 図の右側にある2つのレベルは、意思決定の処理形式が中央集中的であるか、自律分散的であるかという違いからきています。一般的な製造業では、たとえば、資材所要量計算(MRP)は、全品目レベルまでを集中処理で行っている場合が多いため、図のような形態となっています。このように、集中処理と分散処理の境界が全品目レベルの意思決定の中にあるというのは、きわめて一般的といえます。つまり、一般的には、全品目レベルにおいて、生産現場ごとにさらに詳細な制約情報や、稼動状況などを加味した意思決定が行われます。

APS内の意思決定の階層構造

以上の2つの視点にしたがってAPSにおける意思決定を階層化すると、以下のような4種類の意思決定問題が存在することになります。これらの各意思決定は、通常は個別に行われますが、いくつかの機能ブロックをまとめて、統合的に解決することも可能です。なお、これらの各意思決定の機能の詳細は、本仕様書の第2部にて規定されています。

(1)需給調整計画

需給調整計画では、製品ファミリーのレベルでの生産数量の決定を行います。また、同時に、生産のための資源に関しては、工場全体あるいは特定のエリア単位で、その能力を決定します。これらの意思決定は、比較的中長期的な計画期間に対して行います。生産のための資源については、必要に応じて能力の補強も可能です。この意思決定は、財務的な視点からの投資計画と密接に関係しており、企業の全体的な収益の視点からの最適化が図られます。

(2)基準日程計画

基準日程計画では、具体的な最終製品ごとに生産数量が決定されます。計画の対象期間は短期から中期となります。具体的な最終製品の数量は、実際に受注した顧客オーダや、需要予測に基づく見込みオーダなどの情報をもとに設定されます。生産のための資源に関しては、需給調整計画と同様に工場全体や特定のエリアとなりますが、能力値は意思決定の対象ではなく制約となる場合があります。製造部門と販売部門がここで設定される具体的なスケジュールのもとで合意し、同時に、資源や資材について有限キャパシティーのもとでの実行可能性がチェックされます。

(3)作業日程計画

作業日程計画では、基準日程計画にて提示されている最終製品の生産量と完成日時に対し、それを実際に生産するために必要となる作業を確定し、それらの作業が、利用可能な有限の資源がもつ将来の各時刻に割当てられます。ここでは、意思決定の中心的な議論が作業となり、作業を介して必要な資源の工数や、中間製品、部品、そして資材などの数量の要求が決定されます。これは、いわゆるMRP(資材所要量計算)やCRP(能力所要量計算)の考え方が含まれた計画やスケジューリングが対応します。

(4)詳細スケジューリング

最後に、詳細スケジューリングは、基本的な考え方は作業日程計画と同様ですが、ここでは、各生産現場の個別の制約や要望を組み込んだ意思決定となっている点、あるいは、意思決定のアウトプットであるスケジュールが、作業日程計画と比較してデータの粒度がより細かく、原則として業務の各アクションに直接対応したレベルとなっている点などが特徴となります。詳細スケジューリングのアウトプットは、直近になって、作業指示として現場の作業者に送られます。

つづく...