APSの現状技術

 すでに、いくつかの製造業の情報システムでは、APSに関連した多くの技術が開発され利用されています。ここでは、現時点でのAPS関連技術について再確認します。以下に、主要なものを列挙し、簡単な解説を行います。

(1)作業中心BOMデータ管理

従来のBOMは、親品目と子品目との関係構造を記述します。これは、MRP(資材所要量計算)において、親品目である製品の必要数量から、子品目である部品や資材の必要数量を計算するために利用されます。一方、親品目を生産するための作業は、別途ラウティング表で記述され、別に管理されています。これは、資源の負荷計算やスケジューリングに利用されます。APSでは、これらの独立した2つの情報を、作業をキーに関係づけ、親品目と子品目の間に作業を含む形式のBOMを持ちます。

(2)生産現場の詳細なモデリング

生産現場で実際利用する実行スケジュールを作成するためには、それぞれの現場固有の制約をスケジューリングシステムに設定する必要があります。従来の詳細スケジューリングでは、先行制約、資源制約など、非常に単純化されたものしか存在しませんでした。APSでは、これらに加え、資材や部品制約、品目切替制約、作業者やツールなどの副資源制約、同時実行制約など、生産現場のさまざまな現実的な制約を扱うことが可能です。

(3)有限能力&有限資材スケジューリング

従来の有限能力スケジューリングが、設備や作業者の能力のみを考慮してスケジュールを作成していたのに対し、APSのスケジューリングロジックの最大の特徴は、資材在庫の制約も考慮している点といえます。つまり、有限能力&有限資材スケジューリングです。APSが行うこのスケジューリングロジックでは、作業をある時間帯に配置するにあたり、必要設備の能力をチェックすると同時に、必要資材の有無をチェックします。

(4)ボトルネック中心スケジューリング

特定の設備がボトルネックとなって工場全体の生産性を大きく左右するような場合、APSでは、その設備の稼働率を最大にするスケジュールを作成することができます。具体的には、まずボトルネック設備のみについて、その稼働率が最大となるスケジュールを設定します。ボトルネックより上流工程では、タイムバッファを設定した上でバックワードスケジューリングを行い、下流工程ではフォワードスケジューリングを行います。

(5)MPS詳細シミュレーション

MPS(基準生産計画)は、販売部門と製造部門との連携のための重要な情報です。APSでは、MPSとして設定された製品ごとの基準日程が、実際の生産現場の状況を考慮した上で、現実的に実現可能かどうかを、詳細スケジューリング機能を用いて事前に検証します。ここでは、詳細スケジューリングをシミュレーターとして用いています。また、必要に応じて、そこでの結果をそのまま、実行スケジュールとして共有することもできます。

(6)ダイナミックなフルペギング

従来のMRPでは、個々の生産現場の個々の生産ロットが、最終的にどの顧客オーダに対応するかを確認すること(フルペギング)ができません。一方、製番方式では、個々の生産ロットが最終オーダに対応しているが、ロットまとめなど効率的な生産には不向きです。APSのフルペギングでは、両者の特徴をとりこむことで、生産現場の各ロットや生産指示が、最終オーダと常に対応づけて管理でき、必要に応じてダイナミックにその対応関係を付け替えることが可能となっています。

(7)メタヒューリスティックによる最適化

製造業における全体最適を指向した計画を作成するために、APSでは、GA(遺伝的アルゴリズム)やタブーサーチなどのメタヒューリスティックによる最適化計算を行います。これらの最適化ロジックは、ヒューリスティック(発見的探索法)を駆使し、製造業の計画やスケジューリング問題のように、非常に複雑で厳密な最適解が見つからないような状況でも、比較的短い時間で、厳密な最適解ではないが、人間が独自に行う計算よりははるかに勝る解を提示してくれます。

つづく...