APSが必要となる背景

 以下に製造業の現状とAPSが必要となる背景について、製造業をとりまく環境と、製造業が抱える問題点に分けて説明します。

製造業をとりまく環境

新しい意思決定の枠組みであるAPSがなぜ必要なのかを説明するために、現在の製造業をとりまく環境として、特徴的な以下の3点をあげます。

(1)不確実性の増大、需要変動の激化

需要予測が当たらないのは、もはや常識となっており、需要と供給とのバランスを保つことは非常にむずかしくなっています。これには、製品が多様化し、個々の製品がターゲットとする市場セグメントがますます狭まっていることも影響しています。また、ある日突然、技術的あるいは社会的要因で、製品の販売数量が激変する場合もあります。

(2)製品ライフサイクル短期化

市場は目新しさを求めており、常に新製品をタイムリーに投入し続けなければ、一定の販売量を確保できない状況になりつつあります。また、技術進歩により、最新の技術動向にキャッチアップした製品をタイムリーに市場に投入することが戦略的に重要となっています。製品ライフサイクルが短期化するとともに、そのサイクルを予測することも困難となっています。

(3)サプライチェーン、EDIの変化

日本的な系列企業による安定的な取引関係が徐々に崩れ、グローバルな視野から最適調達を指向する企業が増加しています。企業間の取引は固定的な従来のEDIからインターネット技術を活用したよりフレキシブルなものとなり、企業内部の計画情報等を的確に提供し共有できるかどうかが、強いサプライチェーンへの参加条件となりつつあります。

製造業が抱える問題点

一方で、現在の製造業の情報システムが、これらの変化に対応する能力があるかどうかを検証してみると、現在の製造業の基幹情報システムは、以下の3点において欠陥があることが分かります。

(1)既存ERPの機能補完の必要性

現在の製造業の多くは、1980年代のCIMの時代に汎用機をベースとした基幹システムを構築し、さらに一部の企業は過去10年間にERPシステムを導入しています。ただし、いずれの場合にも、そこに実装されている計画機能は、1970年代に開発されたMRP(資材所要量計算)方式をベースとしており、これが緻密でフレキシブルな計画変更に十分に対応できず、現実に即したアクションとの大きな乖離が起こる要因となっています。

(2)クライアント・サーバ方式による集中管理の弊害

集中型データベースは、いずれもデータ構造の設計には非常に緻密さが要求され、あらかじめ設計したスキーマに適合した情報しか受け付けません。しかし、生産現場で必要とされ、計画として考慮すべき情報には例外事項が山ほどあり、実はこれらがもっとも重要な情報であることが多々あります。クライアント・サーバ方式を集中管理で行った場合、これらの貴重な情報の多くがシステム外の人間系で処理されてしまい、部門間で共有することができないのが現状です。

(3)持続的な改善と情報システムの関係

ビジネスプロセスあるいはエンジニアリングプロセスは、常に改善、改革を繰り返し、企業全体として進化し続けなければなりません。一方、情報システムは、よほどの工夫をしない限り、業務の持続的改善のように頻繁には変化できないという性質をもっています。情報システムの更新には莫大な費用と期間とリスクが伴い、業務改善、改革の足かせとなる場合すらあります。また、システムの更新にともない、データの移管がスムーズに行われず、貴重な過去の資産であるデータを捨てざるを得ない場合もあります。

このような製造業をとりまくこれらの現状と、現実の情報システムの能力の限界を踏まえ、製造業は新たな意思決定のためのしくみであるAPSとその概念を企業内に構築する必要に迫られています。

つづく...